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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)889号 判決

主文

昭和三一年(ワ)第一、五九三号被告合資会社信貴造船工場同株式会社信貴造船所は同号原告東亜合成化学工業株式会社に対し別紙目録記載の土地上に存する物件を収去して明渡せ。

昭和二七年(ワ)第八八九号原告愛産商事株式会社の請求を棄却する。

訴訟費用は昭和三一年(ワ)第一、五九三号事件に付生じた部分は同号被告等の負担とし昭和二七年(ワ)第八八九号事件に付生じた部分は同号原告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は

昭和二七年(ワ)第八八九号事件に付被告合資会社信貴造船工場は原告愛産商事に対し別紙目録記載の土地を地上物件を収去して明渡せ。

同号被告四名は連帯して原告愛産商事に対し昭和三十一年一月一日より同年三月末日迄毎月坪当金二十九円、同年四月一日より同三十二年三月末日迄毎月坪当金三十四円、同年四月一日より同三十三年三月末日迄毎月坪当金三十九円、同年四月一日より明渡済迄毎月坪当金四十七円の各割合による金員を支払え。

昭和三一年(ワ)第一、五九三号事件に付同号被告等は原告東亜合成に対し別紙目録記載土地上の物を収去して明渡せ。

各事件に付訴訟費用は夫々被告等の負担とする旨の判決と担保を条件とする仮執行の宣言を求め

昭和二七年(ワ)第八八九号事件の請求原因として

原告愛産商事株式会社は昭和十三年頃から原告東亜合成株式会社所有の別紙目録記載土地を借受けていたが原告東亜合成の承諾を得て被告合資会社信貴造船工場に昭和十八年一月二十日(1)の土地を、同年四月二十日(2)乃至(6)の土地を夫々賃料一ケ月一坪に付八十銭(後に三円に変更)支払期日毎月末日、期間昭和十八年一月二十一日より三ケ年、用途木造船製造用、特約として貸主の都合で期間内でも六ケ月前の予告で解除できること、期間満了の場合で双方に異議がないときは更に延長する旨を定めて賃貸した。

昭和二十一年一月二十日期間を延長したけれども昭和二十五年十二月に至つて原告愛産商事は必要を生じ本件土地の明渡しを求めたが被告合資会社は今日まで之に応じない。右解約申入後六ケ月を経た昭和二十六年七月一日を以て本件賃貸借契約は終了したので明渡を求めると共に、被告合資会社はその頃から賃料の支払もしないので原告は他に貸与せば賃料相当額を挙げ得るのに被告会社の占拠により請求趣旨記載の損害を蒙つている。被告信貴信太郎同信貴政治、同阪田松太郎は被告合資会社と連帯して本件土地の賃貸借に関する被告会社の原告愛産商事に対する債務に付保証の責に任ずることを約しているので右金員の支払については被告等に連帯して支払を求める。

更に本件土地の賃貸借に際しては原告の承諾なく賃借権の譲渡又は賃借地の転貸を禁止し契約に違反したときは期間に拘らず催告を要せず土地の明渡を求め得ることを定めたのであるが被告合資会社の社員が取締役、監査役となつて昭和二十六年七月一日株式会社信貴造船所を設立し被告合資会社信貴造船工場は事実上営業を廃止し事業は全部株式会社信貴造船所に移し同時に本件土地も原告の承諾なく株式会社信貴造船所に転貸し現在は両会社が占有しているが右は明に原告との契約に違反するので原告は契約に基き本件土地の明渡を求めると述べ

被告の抗弁に対し本件土地の賃貸借契約は一時使用の為の契約であつて借地法の適用がない。本件契約締結当時我国は第二次大戦中で多数の軍用輸送船を喪ひ危機に臨んで政府は船舶不足を小型木造船を多数急造して急場を凌ぐため民間造船工場に指令して計画造船を為した。本件土地は川岸にあつて原告の商品荷揚置場として使用していたが本件土地に隣接して木造船の建造をしていた被告会社は造船用敷地の拡大の必要を生じ本件土地の一時使用を原告に申込んだ。原告愛産商事としては軍の要望もあつて当時の社会状勢から拒絶することも出来ず自己の使用計画を抑えて戦争目的遂行のためにする一時使用であるから之を承諾するに至つたものである。元来小型木造船は露天造船が建前であるに加え緊急の計画造船として昼夜兼行に造船され資材節約のため工場家屋の建設も許されていなかつたのであつて右の如く戦争の継続を条件とし露天造船として用地の使用のみを目的とする土地に借地法の適用を求めるのは失当で被告は戦後原告の阻止を無視して工場用家屋を建設し既成事実を作出した上借地法の適用を受けんとするのは不当であると述べ

昭和三一年(ワ)第一、五九三号事件の請求原因として

別紙目録記載の土地は原告東亜合成化学工業株式会社の所有で同原告は自社製品の販売並に原料買入上の取引先である原告愛産商事株式会社に転貸を禁止して原告東亜合成取扱商品と原料の置場に使用せしめるため昭和十三年十一月一日貸与した。

原告東亜合成はその後営業上の必要から本件土地の返還方を原告愛産商事に申入れたところ同原告は之を承諾し乍ら仲々返還を履行しないので調査したところ同原告は(1)乃至(5)の土地は昭和十八年一月二十日(6)の土地は同年四月二十日夫々被告合資会社信貴造船工場に転貸していたことが判明した。同原告は返還に努力しているがその効なく今日に至つている。

原告東亜合成は昭和三十一年四月九日原告愛産商事との賃貸借契約を解除したが被告合資会社は原告愛産商事から転貸して本件土地を占有するに至り被告株式会社は被告合資会社と共同で占有するものであるから右転貸人との賃貸借契約が解除せられた以上之を占拠する法律上の原因を欠くから原告東亜合成はその所有権に基き各被告等に本件土地の明渡を求めると述べ

被告等の抗弁に対し

原告東亜合成は原告愛産商事から本件土地を当時軍部及び被告合資会社から計画造船のため一時貸与方を強く要請され止むなく承諾した旨事後報告を受け当時の状勢上やむなきこととして一時使用を諒解したことはあるけれど固より被告会社の利益を図つたものでもないから転貸を承認した場合に該当せず終戦と共に当然返還せらるべきものである。

更に原告東亜合成は本件土地を原告愛産商事に原料置場として貸与したもので建物の所有を目的とする賃貸借ではないから借地法の適用はなく原告愛産商事が前述の様に軍の圧力に屈して露天木造船製造場所として戦争目的遂行のため貸与したに過ぎないから仮に原告愛産商事と被告会社間の契約が建物所有を目的としていたとしても基本契約を上廻る転貸契約は原告東亜合成に対抗し得ないものである。

被告等は本件土地上の建物は一千万円の価格があるのに之を取払い無価値物たらしめることは信義則違反であるというけれども終戦と共に当然返還すべきに返還せず今日迄占拠を続け一、三四六坪九一三、一坪一万円として一三、四六九、一〇三円の価値ある尨大な土地を使用不能に陥入らしめている事実からしてもその主張の謂れなきこと明であり況んや検証の結果によれば一千万円の建物と称するものは堀立小屋に過ぎないに於いてをやである。

原告両会社が緊密の関係に在ることは争わないが原告愛産商事は原告東亜合成以外の他社の商品も取扱つているもので被告の謂う如き親子会社でも一会社の行為が他社の夫に当る如き関係ではない被告株式会社は昭和二十五年十一月二十五日設立されたものであり乍ら昭和十九年乃至二十三年中に原告会社が被告株式会社のため本件土地の転貸借を承諾する如きことはあり得ないのであつて被告の主張の虚偽である証左であると述べた。

(立証省略)

被告等訴訟代理人は両事件に付夫々原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め

昭和二七年(ワ)第八八九号事件の答弁として

同号原告主張事実中被告合資会社及爾余被告らが原告主張通りの条項を定めて本件土地を借受けたことは認める。但し木造船製作所敷地として賃借したものであるから期間三ケ年とあるは賃貸期間ではなく賃料改訂の期間と解する。凡そ木造船建造の為にはドツクは勿論事務所工場等広大な建物を必要とするのであつて本件賃貸借は当然右建物の所有を目的とするものである従つて契約締結後三十ケ年は賃借権を生じたものである。原告の本訴請求はその期間満了前に明渡を求めるものであるからその請求に応じ難い仮に被告の右主張が理由なしとしても被告は同原告の請求する一ケ月一坪当の土地損害金の額を争う

原告は本件賃貸借は一時使用の契約であると主張するが原被告間の契約書によつても一時使用なる字句は何処にもなく却つてその十三項には前記各項の規定による外借地法の適用を受くる旨を明記し、期間の延長を規定したのは一時使用に非ざる証左である。本件土地の賃料は当初は一ケ月坪八十銭であつたがその後数回値上を重ね現在は坪十円合計一ケ月金一万三千四百七十円で毎月滞りなく今日迄引続いて十五年の長期に亘つて支払われ来つた事実かも一時使用の契約でないこと明である。

原告の被告合資会社から被告株式会社に本件土地が転貸されたと主張するが之を否認する被告合資会社は事業経営の増大と共に社員も増加したのであるが対外関係から直に組織を株式会社に変更するも困難な事情があつたので別に株式会社を設立したに過ぎないのであつて株主、経営幹部も殆んど合資会社の社員と変りがない。造船事業に必要なものは建物工場、設備であつて土地は従たる関係にある。従て合資会社から株式会社に対し、工場、建物、設備一切を賃貸しているけれども本件土地は転貸していない。

原告愛産商事は本件土地について明渡を求めているが転貸を理由とする契約解除の通知は未だ受けていないからその理由よりする原告の請求は失当である。

原告愛産商事と原告東亜合成は昭和三十一年四月九日本件土地の賃貸借契約を合意解除したというが然らば原告愛産商事の明渡請求権は消滅した筈であると述べ

昭和三一年(ワ)第一、五九三号事件の答弁として同号原告主張事実中本件土地が原告東亜合成化学工業株式会社の所有なることのみを認めてその余の事実は不知ないし之を争う。原告東亜合成が本件土地を原告愛産商事に転貸を禁じて貸与したとの点は否認する。仮に転貸禁止の事実があつたとしても原告東亜合成は被告合資会社の転借を承認したものである。

被告合資会社は木造船製造のための建物所有を目的とする賃借権を取得したものであつて原告東亜合成も之を承認したのであるから原告合成が原告愛産商事との賃貸借契約を解除したとしても借地法に基く賃借権を取得した被告の権利に何等消長を来す事はない。

原告両会社は形式的には別個の会社であるが実際は親子会社で一会社の行為は他会社の行為と同一視すべきものがあり本件土地の転貸その承認の如きは正に夫に該り原告東亜合成は十二分にその間の事情を詳にしている。

仮に被告の右主張が理由なしとしても原告の本訴請求は信義誠実の原則に反する。被告は本件土地上に造船工場、倉庫、工具置場等十七棟合計建坪五百二十余坪を所有し之を収去して土地を明渡すとせばその損害は一千万円を下らない。之に反し原告東亜合成は他に有閑未使用の多大の土地を所有し何故に本件土地の明渡を求むるかその目的さえ明にしていない。原告は転売して利を挙げんとするか地代を値上せんと計り居るものと考える外なく信義則に反する請求で失当であると述べた。

(立証省略)

別紙         目録

(1) 大阪市西成区津守町西五丁目百九十八番地

一、宅地二千百二十八坪の内、四百六十二坪八合七勺

(2) 同所 二百一番地

一、宅地八十四坪九合九勺

(3) 同所 二百二番地

一、宅地二百五十坪

(4) 同所 二百四番地

一、宅地九十二坪四合六勺

(5) 同所 二百五番地

一、宅地三十九坪五合四勺

(6) 同所 百九十八番地

一、宅地二千百二十八坪の内、四百十七坪五勺三

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